12/21. 先日、今の日本が直面している課題を分析した1時間ほどのポッドキャストを聞いて深い感銘を受けました。配信者の名前はリチャード・カッツ。時には「聞くことでしか学べない」ないような鋭い洞察力を持った人物に出会うことがありますが、彼は正にそれでした。自分自身の備忘録として、そして彼の知見をもっと多くの方と共有するためにその内容を簡単に要約しました。
リチャード・カッツについて
リチャード(リック)・カッツは米国人ジャーナリストです。日本特派員として数十年にわたって日本経済に関する記事を執筆してきた彼には、日本への強い愛着と低迷する日本経済が抱える問題に対する強い危機感があります。
リックは配信の中で「30年も続く経済的な低迷を打破するために、日本は起業家精神を『再発見』して生まれ変わらなければならない」と強調しています。彼の記事は『Foreign Affairs』、『The Financial Times』、『東洋経済』、『Wall Street Journal Asia』などで発表されています。
メガトレンド1:世代間の意識の変化
リックは、日本では若年層を中心に盲目的な従属意識が薄れ、安定よりも独立を選ぶ傾向が強まっていると指摘します。スキルのない若者の方が就職に不利で、不景気や業績悪化の影響をダイレクトに受ける立場だからです。リックはある大企業の社員が昇給を提示されたにもかかわらず退職を決意した例を紹介しました。「次の冒険を探すため」という退職理由は当然上司の理解を得ることができませんでした。
メガトレンド2:高齢化社会の到来
「経済的な保証」の必要性は中小企業の世代交代を妨げる大きな問題になっています。このままではおよそ60万社の中小企業が後継者不在のために廃業し、500~600万人の雇用が影響を受けるだろう、とリックは概算しています。
また、リックは世代交代をサポートする財政的な支援が不足していることや、まだまだ現役の60歳で定年が訪れる日本の慣習にも苦言を呈しています。
メガトレンド3:日本社会のジェンダー問題
リックは経済成長の起爆剤となり得る女性の社会進出が進んでいないと指摘しています。日本では1986年に中曽根内閣によって「男女雇用機会均等法」が成立しました。小泉、安倍内閣では「管理職の女性比率20%の実現」と閣議決定しましたが、法律が施行されるまでには至りませんでした。
職場での偏見も顕在です。日本人女性の多くは未だに事務職(母親)としての役割を期待され、出世もその枠に留まっています。才能ある女性たちは外資系企業やベンチャー企業などで働くことでそのようなキャリアアップの偏見と戦う道を選んでいます。
メガトレンド4:グローバル化
専門性や国籍の違いを超えた交流は外資系企業では当たり前の光景です。しかし、日本企業にはそれがないとリックは嘆きます。日本は外国企業の国内操業を許可している国として世界196か国の最下位となっています。
日本ではすでにエンジニア不足が社会問題化していますが、この数は今後5~7年間で50万人に膨れ上がると予想されています。日本経済復活のためには今後10年でグローバル化をもっと強力に推進していかなければならないとリックは言います。
メガトレンド5:テクノロジーへのすばやい対応
テクノロジーの進歩は新しいビジネスモデルを生み出します。テクノロジーが日常生活を変えるからです。例えば、電球の登場によってナイトライフが生まれ、(ワイヤレスで、ペアレンタルコントロールもない)トランジスタラジオはティーンエイジャーに音楽の自由を与えました(中でもエルビス・プレスリーは「キラーアプリ」でした)。
リックは「(アナログ時代に生まれ育った)日本の大企業の時代は終焉を迎えつつある」と断言します。研究開発は25,000人規模の企業ではなく、1,000人や500人規模の企業がリードするようになりました。新しいテクノロジーは既存の仕事を効率的に行うためだけではなく、新たに生まれた仕事のために使われるべきです。
メガトレンド6:起業家精神
「かつてのような起業家精神の復活を後押しする日本固有の要素とは何か」とリックは問いかけます。労働市場は徐々にオープンになっています。安定を捨てて「残された10~15年で新しいことに挑戦する」ために中小企業に転職する40代の優秀な人材が増えています。日本での起業に大きく立ちはだかる問題が人材確保と資金調達です。人材確保は解決の目処が立ってきていますが、資金調達の問題は未だに深刻です。
銀行は大企業にばかり目を向け、成長のために資金を必要とする中小企業への投資を渋っています。日本では外国からの直接投資がほとんどありませんが、これがもっと一般的になれば中小企業にもたくさんの扉が開かれるだろうとリックは言います。
十分な数の管理職を確保することも必要です。いくら才能に溢れた人材がいても、それを活かすためには優れたマネジメントがなければなりません。また、リックは日本人がよく使う「しかたがない」という言葉を自信や決断力を蝕む負のオーラを発するものとして否定的に見ていますが、ソーシャルメディアがこれを抑えるポジティブな役割を果たすことを期待しています。
このようなメガトレンドのいくつかが変われば日本の将来も変わるでしょう。日本政府は中小企業のサポートに力を入れています。日本の新たな「黄金時代」がやってくることを信じています。
マイク・ドラットマン
Youtube:『Japan’s Six Megatrends and Why They Matter with Richard Katz』